2024.9.6
「古事記」にはさまざまな逸話が載っていますが、その中でも最大級のスペクタクル巨編がヤマトタケルの物語でしょう。
ヤマトタケル、「古事記」には「倭建命」、「日本書紀」には「日本武尊」として表記されています。
日本の古代に編纂されたこれら2つの書物の中で、ヤマトタケルは景行天皇の皇子ということになっています。
天皇の命を受けて西へ東へと遠征する物語ですが、「古事記」と「日本書紀」では内容がけっこう違っています。
「日本書紀」では父である天皇の権威を日本中に高める皇族将軍として、「古事記」では父に嫌われ死を願われて遠征に出される悲劇の英雄として描かれているのです。
そんな事情もあって、「古事記」に描かれたヤマトタケルの物語の方が圧倒的に面白いです。
ヤマトタケルは、東征の途中で地元の豪族に焼き討ちに遭っています。
これは「古事記」でも「日本書紀」でも同じです。
若干の違いは、「古事記」では相模の国造(朝廷から命じられて地方官を務めていた地方豪族)、「日本書紀」では駿河(静岡県東部)の「賊」(在地の豪族と思われます)に焼き討ちされている点です。
共通点は、ヤマトタケルが草原にいるところを周囲から火を放たれていることです。
草原で火に囲まれたヤマトタケルは、叔母から与えられた火打ち石で迎え火を放ち、十束の剣を抜いて周辺の草をなぎ払い、危地を脱しています。
この剣が「草薙剣」となり、後に三種の神器となりました。
実は「草薙剣」は複数あるらしく、皇居にあるもの以外に熱田神宮のご神体だったり海に沈んでいるものもあるらしいのですが、話が複雑ですので割愛します。
先に書いたとおり、焼き討ちの地は「古事記」「日本書紀」に書かれているだけでもちがうように、どこだったのかはっきりしません。
東海道を歩いていても、複数の場所で焼き討ちの伝説が伝わっています。
静岡市清水区の草薙もその1つです。
なにしろ地名からして、炎から身を守るため剣で「草なぎ」です。
焼き討ちの地という地元の伝説にもとづいて、ヤマトタケルを祀る草薙神社が、東海道から南東約1.2キロのところにあります。
その参道は、草薙駅近くの東海道沿いにあるしずてつストアの向かいから始まっています。
令和2年(2022)までは、この参道入口に草薙神社の一の鳥居がありました。
ところがこの鳥居、老朽化して倒壊の危険が出てきたのです。
その対策のために静岡市が調べたところ、昭和50年(1975)に建てられたことはわかっていたものの、誰が建てたか、所有者は誰だかわからないことが判明したのです。
草薙神社の参道入口にありながら、なんと草薙神社が所有する鳥居ではなかったのです。
結局所有者不明として静岡市が代執行で解体し、鳥居は参道入口から撤去されました。
町のシンボルでもあり、東海道沿いの名物でもあった鳥居は、草薙の町から消えてしまいました。
でも草薙神社にかかわるすべてが消えてしまったわけじゃありません。
まず解体した鳥居の額です。
これは現在は草薙神社の拝殿前に置かれています。
また、しずてつストアのはす向かいのマンションの敷地内には、「古宮」と呼ばれている小さな社があります。
もともと草薙神社は東海道沿いにあったと伝わっているのです。
ヤマトタケルの死後に、父である景行天皇は東国に巡幸したことが「日本書紀」に見られます。
その中に草薙のことは出てこないのですが(そもそも「日本書紀」には焼き討ちの地を焼津としています)、地元では景行天皇がこの地まで来て、みずから草薙神社を建立したと伝わっています。
こうして東海道沿いに創建された草薙神社が1.2キロほど離れた場所に移転した後、旧地に建てられたのがこの古宮だと伝わっているのです。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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