2024.9.21

東海道藤沢宿は、時宗の総本山・遊行寺の門前町が宿場となったところです。
時宗は念仏宗のひとつとされ、「南無阿弥陀仏」と唱えて阿弥陀如来にすがることで極楽往生できるという信仰です。時宗を興したのは一遍上人です。
武士の出身です。
瀬戸内海の水軍であった河野氏に生まれ、出家したのです。
そのため時宗の門は河野家と同じです。

惣門に付された遊行寺の紋

一遍上人の教えのもととなったのは浄土宗で、「南無阿弥陀仏」と唱えることで極楽往生による救済があると民衆に対して布教し、説法のときに催した踊り念仏のパフォーマンスで人気を集めました。
一遍上人は日本中を旅しながら布教活動を行ったため「遊行上人」、その系統の僧たちを「遊行僧」と呼ぶようになりました。

遊行寺境内に一遍聖人像

一遍上人は布教の拠点としての寺や道場をもちませんでした。
さらに正応2年(1289)に没したときには、その直前に自分の所持品をすべて焼き捨ててしまいました。
「すべてを捨てて念仏に専念することが阿弥陀仏の本願」という信念に基づいたものでした。
このように鎌倉時代にいわゆる「断捨離」を実行した一遍上人は、「捨聖」(すてひじり)とも呼ばれています。

一遍上人の没後は他阿真教上人が2代目遊行上人となって一遍の信者や僧侶たちをまとめ、晩年に教団の拠点となる道場を相模国に築きました。
それが相模原市の無量光寺です。

なお他阿真教上人は千代田区大手町の将門首塚や神田明神を築いた人物として知られています。

将門首塚
神田明神

他阿真教上人の没後は智徳上人が3世遊行上人となりました。
ところが智徳上人の没後に4代遊行上人の座をめぐって争いが起こり、次代遊行上人の有力な候補と目されていた他阿呑海上人は無量光寺を出て、故郷の藤沢に戻りました。
藤沢の豪族俣野氏の出身だった呑海上人は、兄の俣野景平の支援で正中2年(1325)に新たに寺を建立しました。
それが清浄光寺、通称遊行寺です。

遊行寺本堂

室町時代に入り、関東では応仁の乱が始まる50年も前に戦乱の時代に入りました。
そのとき遊行僧たちは戦場に赴く武士たちに同行し、十念をを授けたり(念仏を10回唱えて極楽往生できるようにすること)、戦死者を埋葬したりしました。
応永23年(1416)には元関東管領の上杉禅秀が鎌倉公方の足利持氏に戦いを挑んだ上杉禅秀の乱が起こりました。
その戦いの戦死者を、第14代遊行上人の弥阿太空上人が敵味方を問わず埋葬し供養した「敵御方供養塔」が遊行寺に残っており、国の史跡に指定されています。

国指定史跡 敵御方供養塔

時は移って令和です。
74代の遊行上人は他阿真円上人は令和3年に103歳で亡くなりました。
その10年くらい前ですが、私は上人のお会いしたことが一度だけあります。

遊行寺の中を案内してもらっていたとき、スーツを着たご老人が通りかかったんですね。
そうしたら私を案内してくださっていた人から「遊行上人です」といきなり紹介されたんです。

私が東海道を歩く仕事をしていることをお話しすると、ご上人は「私も日本中を旅行しますが、新幹線を使ってます。夢に一遍上人が出てきて、『なぜ歩かない』とよく叱られます」とおっしゃっていました。
とても張りおある大きな声でお話になる方でした。
ですから亡くなったことをニュースで知ったときには、あんな元気だった方がと信じられませんでした。(103歳です)

→遊行寺ホームページの他阿真円上人のページ

藤沢の商店街にある幟の「藤沢宿」の文字は、他阿真円上人が書かれたものです。

他阿真円上人が書いた「藤沢宿」
※「宅急便」じゃない方

現在の遊行上人は75代の他阿一浄上人です。

→同じく他阿一浄上人のページ

遊行寺の中にある藤嶺学園の理事長で、書家でもいらっしゃいます。
藤嶺学園は藤沢高校がスポーツの強豪校で、野球で甲子園に出場したこともあります。

歌川広重「東海道五拾三次之内 藤沢遊行寺」
中央上の高台の上に描かれているのが遊行寺 

広重の浮世絵にも描かれている遊行寺、今回は遊行上人の話に絞りましたが、他にも見ておきたいところ、知っておきたいところががいっぱいのお寺です。

   

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

東海道歩き旅イベント 参加者募集中

それが歩き旅応援舎の東海道歩き旅イベントです。

「日帰りで歩く東海道」  日本橋~原宿を日帰りで歩きます。全15回
「京都まで歩く東海道」  原宿~三条大橋を一泊二日で歩きます。全18回
それぞれ月に1回ずつ歩いて、東京の日本橋から京都の三条大橋をめざすイベントです。

以下のイベントが参加者募集中です。途中からでもご参加いただけます。
このブログには書いていないことが、実際の東海道にはいっぱいあります。
もっとくわしくお話をしながらガイドがご案内いたします。

一緒に東海道を歩きませんか?
人生の宝となるような経験、そのためのお手伝いをいたします。

最新のブログ記事