東海道五十三次の歩き旅で小田原宿を東から西へと歩いて行くと、早川口の交差点前、消防署近くの歩道橋のたもとにこのような碑があります。
最初に小田原から熱海にいたる鉄道が敷かれたときの小田原駅の跡を表す碑です。
いまは小田原から熱海まではJR東海道線が通っていますが、それができる前に造られた鉄道です。
その鉄道、現在からすると驚くべきものでした。
当初の東海道線は、国府津から北上して五反田を通り、沼津へと抜けていました。
→国府津
国府津から小田原を経由して沼津へといたる現在の東海道線が計画されたのが明治42年、国府津から小田原までの路線が開通したのが大正7年、さらに丹那トンネルができて小田原から沼津までの路線が開通したのは、ようやく昭和9年になってからでした。
ですから東海道線が明治22年に開通して以来、22年にわたって小田原には官営鉄道の駅はなかったことになります。
「官営鉄道」とわざわざ断ったのは、国府津から先に鉄道がないことを不便に思った小田原の有志が、国府津から箱根湯本までの間に馬車鉄道を建設したからです。
明治21年(1888)のことでした。
後に電化されて現在の箱根登山鉄道になりました。
さらに東海道の小田原宿から熱海に向けても鉄道が引かれました。
明治22年に開通した東海道鉄道(現JR東海道本線)が箱根の北をまわることになったことで、湯治客が減ることを心配した熱海の旅館主などの有志によって、鉄道が建設されたのです。
国府津から箱根湯本に向かう鉄道の動力が馬、後に電力になったのに対して、熱海へ向かう鉄道の動力はというと・・・
人 力
でした。
それって人力車のこと? と思われるかもしれませんが、日本では藤枝から焼津に向かって初めて人車鉄道が建設されていらい、日本のあちこちに人車鉄道が敷かれました。
人車鉄道はその名のとおり、車両を車夫が押して動かすものです。
観覧車のゴンドラのような小さな車両の四隅に把手が付いており、これを上野写真のように車夫が押して乗客を目的地まで運んだのです。
なぜ人が押すのかというと、当時は開業・運行のための経費が安い鉄道とされていたからです。
蒸気機関車は燃料代をはじめとして機関車と客車の保守整備などにも経費がかかり、馬車鉄道は多頭の馬を飼育しなくてはならず、飼料代が多額に上ったのだそうです。
人車鉄道は機関車や車両基地などの設備投資が不要または安くすみ、運航経費も車夫への給料が中心などから、新たな開業がしやすかったようです。
人車鉄道の特徴は人の力で車両を押すことです。
そのため下り坂は楽ですが、上り坂は大変です。
客車は上等、中等、下等に分かれていたのですが、上り坂になると中等車の乗客は車から降りて歩き、下等車の乗客は車夫と一緒に車両を押していたそうです。
小田原から熱海へと向かう人車鉄道は豆相人車鉄道と呼ばれ、東海道の小田原宿に設けられたから分かれる路地に駅が設けられていました。
停車場跡から東海道(現在は国道1号)に出たところに、人車鉄道・軽便鉄道小田原駅跡の碑があるのです。
上記の地図のとおり、停車場のあった場所は碑のある東海道上ではなく、東海道から南へと出ている路地の中にありました。
この豆相人車鉄道も、明治41年には軽便鉄道に置き換わりました。
その軽便鉄道の機関車が、熱海駅前に展示されています。
この軽便鉄道は、まず大正11年に小田原から真鶴の間に鉄道が開通したこと(現在の東海道本線の一部)によりその区間が廃止され、真鶴と熱海間のみの運航となりましたが、それも翌年の関東大震災で甚大な被害を受けて廃止されました。
2年後に大正14年には真鶴から熱海への鉄道が開通し、昭和9年には熱海から沼津の間の東海道本線が開通して、現在の鉄道路線になっています。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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