三島宿を出て沼津宿に向かう途中、小さな橋があります。
この橋の下には小さな川が流れています。
ここから右側(北側)を眺めると、コンクリート製の構造物があります。
側面には「千貫樋」の文字。
これは関東大震災後に造られたもので、用水路が下の川を渡るための樋です。
もともとは木製でしたが、関東大震災によって破損し、コンクリートで作り直されたのです。
この千貫樋は、戦国時代に東海・関東の有力武将である北条氏康、今川義元、武田信玄が天文23年(1554)に同盟し、それぞれ婚姻関係を結んだとき、駿河の田畑に伊豆から水をおくるため、北条氏康から今川義元に対する引き出物として築かれたとされることが多く、橋の上に設置された説明板にもそう書かれています。
北条氏康の娘(早川殿)は、この同盟によって今川義元の跡取りである今川氏真に嫁いでいますから、その嫁入りの引き出物というわけです。
ただし千貫樋は応仁3年(1469)に現在の清水町の住人たちによって築かれたという説もあり、それによると北条氏康はすでにあった千貫樋を今川義元のために修繕したことになっています。
名前の由来には主に3説あり、
1 樋の造りが巧みで1000貫の価値があるため
2 用水路の水が1000貫の田に流れ込んでいるため
3 樋の建設に1000貫の費用を要したため
などといわれています。
江戸時代中期には川崎宿の本陣当主から幕府の代官にまで出世した田中休愚が、修繕したという話もあります。
この用水路の水源は、三島宿近くにある小浜池です。
ここから流れ出ている蓮沼川が、小浜池から南下した後に東海道に沿って西に向かい、千貫樋へと通じています。
もともと自然の川だった蓮沼川を付け替えて千貫樋の方へ導水したのか、あるいは蓮沼川は千貫樋方面への用水路として最初から人工的に造られた川なのかについては、よくわかりません。
千貫樋は東海道を歩いていると必ず目に付くものなのに、わからないことが多いのです。
ちなみに三島宿は、この千貫樋のすぐ東に枡形を築いて、ここが宿場の西の入口でした。
枡形にあった秋葉山常夜灯が現存しています。
千貫樋の用水路は、東海道から右の路地に入ると上から見ることができます。
なお、千貫樋の架かっている小川の名前は「境川」、千貫樋が見える橋の名前は「境川橋」つまりここが伊豆と駿河の境でした。千貫樋を見ながら、東海道の旅は3か国目に入るのです。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
【参照文献】
「三島市誌下巻」
「静岡県歴史の道調査報告書」
「目で見る三島市の歴史」
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