大河ドラマ「べらぼう」第27回は、謎の武士にたきつけられた佐野政言が殿中で田沼意知に対して刀を抜いたところで終わりました。

実は私が田沼意次の屋敷跡を案内しながら「予告で佐野が刀を抜くシーンが出てきましたので、田沼意知の刺傷事件は次回の放送になりそうです。でも、『え? ここで???』というシーンで突然終わることが多いドラマなので、刀を抜いたところで終わる可能性はありますね」「あははは」とお客様と話をしていたのですが、なんとそのとおりになってしまいました。

実際の田沼意知刺傷事件は(「刺殺事件」といわれることが多いのですが、刺傷から死亡までの経緯が明らかでないところがあり因果関係がはっきりしないため、ここでは「刺傷」とします)天明4年(1784)3月24日に起きました。

江戸城内の中奥にある若年寄の執務室から同僚たちとともに玄関に向かう途中、新番組の詰所付近を通ったところ、新番士として詰めていた佐野政言が「覚えがあろう」などと叫びながら桔梗の間近辺で意知に斬りかかってきたといいます。

「柳営図本丸」より

新番組とは将軍の直轄軍で、旗本がその構成員である新番士を務めました。
直轄軍といっても江戸時代に戦争はありませんから、将軍の外出時の警護や、江戸城内の警備が日ごろの役職でした。

このときに政言によって重傷を負わされた意知は、8日後の4月2日に大手町の神田橋門内にあった田沼意次の屋敷で没しました。
この場所には最近観光協会によって、説明看板が設置されています。

設置された看板

→田沼意次の屋敷跡

それでは加害者である佐野政言の屋敷はどこにあったのでしょう?

「べらぼう」の本編終了後の紀行では「千代田区内」としか言っていませんでしたが、現在の千代田区三番町、いまは大妻女子大学の門のある付近が佐野家の屋敷だったところです。

大妻女子大学の門

明和9年(1772)の地図にも「佐野」と出ています。

明和9年の地図に描かれた「佐野」

「佐野の桜」は、この佐野家の庭に生えていたそうです。
番組内では佐野家の命運の象徴的な存在として描かれています。
ドラマの中では普通の桜ですが、本当はしだれ桜だったそうです。

江戸時代から生えていた桜の木は関東大震災で焼けてしまい、その後ここに校舎を移した大妻女子大が2代目の桜を植えたのですが、それは戦争中の空襲で焼けたとも、枯れてしまったとも言われています。

そのため現在は桜の木はありません。

ところで、ドラマには一橋治済が「ほうう、佐野の桜の」というシーンがありました。
しかし私が調べた限りでは事件以前あるいは同時期に書かれたものに「佐野の桜」の文言は見つかりませんでした。

事件から50年後の天保3年(1832)に曲亭馬琴らが編纂した「兎園小説」という随筆集に「塀際に、古木のしだれ桜三株あり。佐野の桜とて、花のころは往来の人必ず見返りて賞したり」との記述があります。

「曲亭馬琴翁叢書」より

佐野政言は田沼意知を死に至らしめたことで「世直し大明神」と称揚されるようになりました。
浅草の徳本寺にある佐野政言(善左衛門)の墓は、彼にあやかる人たちに削られてしまいボロボロになったくらいです。

徳本寺の佐野政言の墓

どうやらそのころから佐野家の屋敷だった場所に生えていた桜が「佐野の桜」と呼ばれるようになったようです。

ちなみに佐野家の屋敷跡のすぐそばには、桜で有名な千鳥ヶ淵があります。

千鳥ヶ淵の桜

→佐野政言が起こした刺傷事件についてはこちら

   

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

【画像出典】国立国会図書館デジタルコレクション

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