蔦屋重三郎は寛永9年(1797)に48歳で没しました。
若いころに日本橋にあった蔦屋耕書堂で手代をしていたことがある曲亭馬琴は、「近世物之本江戸作者部類」という江戸時代の文学者たちの伝記集を記しています。
この本には曲亭馬琴本人を含めて、山東京伝や四方山人(大田南畝)、恋川春町、唐来三和など大河ドラマ「べらぼう」でもお馴染みの面々の事績が記されています。
その中には蔦唐丸という名で蔦屋重三郎のことも書かれているのですが、ここには重三郎が没したことについては寛政9年に48歳だったことしか書かれていません。
一方で戯作者の瀧亭鯉丈の項にはなぜか蔦屋の事績が、文字数の半分以上を割いて詳しく書かれており、そこには死因が脚気であったこと、墓は三谷(山谷)の正法寺、墓碑銘は大田南畝が撰述したことが記されています。

さて、その正法寺は浅草の北にあります。
吉原通いの人々に利用された山谷堀のすぐちかくです。
お寺に行ってみますと、そこには蔦屋重三郎の喜多川家の墓所があり、重三郎の墓碑があります。

江戸時代に死んだ蔦屋重三郎の墓にしては真新しいのですが、寛政9年当時に建てられた墓石は、関東大震災あるいは第二次大戦の空襲で滅失してしまいました。
現在のものは史料をもとに復元されたものなのです。
だから墓というよりも、墓石の形に復元された碑といった方が正確かもしれません。
また、お寺の説明によると、大田南畝が書いたのは重三郎本人の墓碑銘ではなく重三郎の母のもので、重三郎への追悼文ともいえる墓碑銘は宿屋飯盛こと石川雅望(糠屋七兵衛)が書いたことがわかります。

蔦屋重三郎の伝記を書いた曲亭馬琴(ドラマの中では滝沢瑣吉)、ちょっといい加減なところがあるようです。
この大田南畝が記した墓碑銘の中に、重三郎の母として「広瀬氏」「津与」と書かれており、ここからドラマの中では重三郎の母の名が「つよ」となりました。

重三郎の墓の隣には一族の墓石も復元されており、そこに刻まれた14人の戒名の中に
錬心院妙貞日義信女
というものがあります。

これが重三郎の妻とされる女性で、「貞」の文字があることからドラマでは妻の名が「おてい」となったのです。
ちなみに墓碑銘を書いた石川雅望の墓も、正法寺から約1.8キロ南にある正覚寺(榧寺)にあります。

正法寺では蔦屋重三郎の復元墓碑を公開しています。
お寺の入口には行き方の表示まであります。
ここまで丁寧に案内してもらっているのですから、重三郎の墓参をした際には重三郎の墓所に備えてある賽銭箱やご本尊に志をお供えしてまいりましょう。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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