小夜中山峠に久延寺という真言宗のお寺があります。

夜泣石の伝説が伝わるお寺です。
小夜中山峠を越えようとしていた女性が、賊に襲われて瀕死の重傷を負いました。
女性は身ごもっていた赤ん坊を産むと、そのまま死んでしまいました。
母を失った赤ん坊は久延寺に引き取られ、麦芽飴で育てられました。
しかし死んだ母の魂は子供のことが心配で、峠の東海道にあった丸石に宿り、夜な夜な泣いたということです。
これが夜泣石の伝説です。
伝説がもとになって、峠にある扇屋さんでは今でも子育飴を売っています。


この夜泣石は歌川広重の浮世絵にも「東海道名所図会」にも描かれています。


現在は久延寺の境内に、夜泣石があります。

ところがここから北に約600メートルのところにある国道沿いの飲食店小泉屋の裏山にも、夜泣石があるのです。

夜泣石が2つ?!
これには事情があるのです。
浮世絵にも描かれている江戸時代からある夜泣石は、明治元年(1868)の明治天皇の東京行幸のとき、通行の邪魔になるので動かされました。
道の端に寄せられたとも、日坂宿よりの沓掛に運ばれたともいわれています。
そのうちに参拝客を増やすために、久延寺は境内に夜泣石を運び入れました。
さらにお金を儲けようと、久延寺は夜泣石を明治14年(1881)に東京で開かれた内国博覧会に出展しました。
その運搬費用は金屋宿の商人で前年に有料道路の中山新道を完成させた杉本権蔵とその中山新道の茶屋だった小泉屋から借りました。
ところが内国博覧会で、夜泣石にはまったく客が集まりませんでした。
張り子で作って中に子供が入って泣いた偽物の夜泣石が別に出展されており、泣かない本物の夜泣石は偽物呼ばわりされたためともいわれています。
客が集まらず目論見がはずれた久延寺は、杉本権蔵と小泉屋にお金を返せなくなりました。
杉本権蔵は裁判を起こし、借金返済の代わりに夜泣石の所有権を手に入れました。
東京から夜泣石を運んできた杉本は、これを小泉屋の裏の山に設置し、そのまま現在に至っているのです。
一方で夜泣石を失った久延寺ですが、昭和30年代に(大正時代という説もあります)もともと夜泣石があった近くで同じような大きさの丸い石を見つけたというのです。
そこでこれを境内に運び入れて、かつての夜泣石と同じように展示するようになりました。
だから小泉屋の裏にある夜泣石がオリジナル

久延寺にある夜泣石は2代目です。

江戸時代から東海道の名物だった夜泣石は、数奇な運命の末に今の状態となったのです。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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