「松尾芭蕉は東北の旅人」
そう思っているみなさまも多いことと思います。
なにしろ「奥の細道」は、松尾芭蕉の俳句・紀行文学の傑作です。

国立国会図書館デジタルコレクションより
平泉の金色堂や最上川の流れを詠んだ句は、耳で聞いても情景が思い浮かんでくるようで、やっぱり最高です。
でも私の認識では、松尾芭蕉は私の大先輩。
私がライフワークとしている東海道を、9回も歩いているのです。
私からすれば、芭蕉は東海道の旅人です。
東北に行ったのが1回だけなのに対して、東海道はこんなに歩いているのです。
なにしろ「奥の細道」の旅も、帰りは日本海側から大垣に出て、そこから南に下って東海道を通って江戸まで帰っているのです。
本当は芭蕉は「東海道の旅人」だったのです。

松尾芭蕉はもともと津藩藤堂家に仕えていました。
その身分について明らかにするのはなかなか難しく、下級武士だったとも無足人(伊勢において戦国時代までは武士だった農民・町人)だったともいわれています。
寛文12年(1672)に奉公していた主人が死んだことを受けて、芭蕉は江戸に出てきました。
江戸では神田上水の管理人や俳句の宗匠をしていたようです。

その芭蕉が江戸から始めての旅に出たのが貞享元年(1684)。
生まれ故郷の伊賀上野に向かう旅でした。
このとき芭蕉はおそらく41歳。
通った道はもちろん東海道、この旅の紀行文が「野ざらし紀行」です。
当時深川に住んでいた芭蕉は「野ざらし紀行」の冒頭で
「江上の破屋をいずるほど、風の声そぞろ寒げなり
野ざらしを 心に風のしむ身かな
秋十とせ かえって江戸をさす故郷」
と書いています。
これからの旅は野ざらしの骸骨になる覚悟で出発し、故郷をめざすのに10年以上住んだ江戸がかえって故郷のように思われる気持ちを詠んだものです。
「江上の破屋」とあることから、おそらく当時寄宿していた深川の芭蕉庵の付近で詠んだものと思われます。

国立国会図書館デジタルコレクションより

「野ざらし紀行」には芭蕉がどうやって東海道に出て、東海道をどこから歩き始めたのか書かれていません。
芭蕉庵は新大橋の近くにありましたので、新大橋を渡って日本橋に出て東海道を歩き始めたのか、あるいは小名木川にかかる万年橋をわたって永代橋で隅田川をわたり、京橋や新橋のあたりから東海道に入ったものと思われます。

国土地理院の地図に加筆
なお、新大橋も永代橋も、芭蕉が旅に出たころには現在とはちがう場所に架けられていました。
「野ざらし紀行」冒頭の2句については。深川、日本橋、新橋付近には句碑はありません。
「秋十とせ・・・」の句碑については、いかなる理由か東海道川崎宿にあります。

川崎宿にある稲毛神社、ここにあるのです。

(句碑)
※「野ざらし紀行」の冒頭部分は、古典の引用部分は省略し、仮名遣いも読みやすく直してあります。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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