東海道の原宿と最初に吉原宿があった元吉原との間には、江戸時代になると幕府の政策によって10箇所の新田が開かれ村ができました。

東から順に一本松新田、助兵衛新田、植田新田、東柏原新田、中柏原新田、西柏原新田、沼田新田、田中新田、檜新田、大野新田です。

この付近は富士川から海に流れ込んだ土砂が波によって海岸に沿って堆積し、海沿いに丘陵が形成されたことで山側から流れる水が逃げ場を失い溜まるところです。
こうして浮島沼と呼ばれる池(湖)を中心とした湿地ができあがり、浮島ヶ原と呼ばれていました。

昭和初期の浮島沼
国立国会図書館デジタルコレクションより

この浮島が原で10箇所の新田開発が行われたのです。
浮島が原では生えていた蘆が枯れて積み重なっていましたので、その上に土をかぶせて新田開発が行われました。

このような条件下の土地でしたので水害が起こりやすく、いったん水害が起こると土が流されるのはもちろんのこと、土の下層にある枯れた蘆ごと田んぼが水に浮き上がって流されていったそうです。

植田新田開発の先駆者 植田三十郎の墓

このような困難な土地だったため、新田開発も挑戦と挫折の繰り返しでした。
そのためだと思われます。
これらの新田には独特の伝承があるのです。

湖山長者
沼のほとりに湖山長者と呼ばれる分限者が住んでいた。ある年、田植えをその日のうちに終わらせようと、扇で差し招いて沈もうとする太陽を空に戻し、使用人たちを使って全ての田植えを終わらせた。しかし一夜明けると長者の田は全て湖に変わっていた。

お菊ばあさん
働き者のお菊ばあさんが、何とか田植えをその日のうちに終わらせようと、沈もうとする太陽に頼んだところ、太陽がまた空に戻り、おかげで全ての田植えを終わらせることができた。しかしお菊ばあさんは田植えが終わったとたんに死んでしまった。

今も残る湿地の一部

欲張り耕兵衛
耕兵衛は働き者として評判の農民だったが、裏では他人の田畑を横取りして財産を増やしていた。こうして耕兵衛は蔵のある大きな家を建てたが、ある豪雨の後、耕兵衛の田だけが全て流されて浮島沼に沈んでしまった。

雄鹿塚と雌鹿塚
浮島ヶ原に住んでいたつがいの鹿がいた。ところがあるとき津波によって別々の島に分断されてしまい、悲しみのあまり死んでしまった。哀れに思った村人たちが雄鹿塚と雌鹿塚の2つの塚を造った。

沼のばんばあ
浮島ヶ原からはときどき「ボーンボーン」と音がする。これは水害で孫とともに死んだばあさんが子供を探して「坊、坊」と呼ぶ声だという。

ほかにもいろいろな話があるのですが、このような伝承がある理由は、「自然の力には逆らえない」という悲しい現実認識があったものと思われます。

干拓され住宅が建ち並ぶ現在の光景からは想像のつかないほど、原宿と元吉原の東海道沿いは厳しい環境にあったのです

浮島ヶ原干拓のために築かれた昭和放水路

   

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

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