先日のNHK大河ドラマ「どうする家康」では、徳川家康の最初の正妻築山殿(ドラマでの名は瀬名)の最期が描かれました。

有村架純さん、退場です。

配役が発表されたとき、築山殿(瀬名)役が彼女だと聞いて「あれ?」と思った人も多いはず。「悪女」と伝わる築山殿に、有村さんのイメージが合わないからです。

天正7年(1579)に、徳川家康が正妻築山殿と嫡子岡崎信康(松平信康)を死に追いやった事件が起こります。この事件は築山殿事件、信康事件と呼ばれ、戦国時代とはいえ異常な事件です。

今に伝わる築山殿については、今川義元の縁者(義元の妹の子とも)であること、駿府で人質時代の家康と結婚したこと、家康とは不仲であったこと、それなのに2人も子供がいること、武田勝頼に内通し、そして最期は家康によって殺されたことくらいで、あまり情報量が多くない上に詳細さにも欠けています。そもそも大河ドラマで使われている「瀬名」って名前も、本来は「瀬名氏の娘」というくらいの意味しかありません。築山殿の両親は、関口姓ですが瀬名氏の一族です。徳川初代将軍の妻なのに、名前すらわからないのです。

そして「悪女」と評されることが多い築山殿です。不義密通を働いたとか、家康を裏切って武田勝頼と内通したなどと伝えられています。しかし、これらの話はみな後世に編まれた書物に載っている話で、これもどこまで信じていいのかわかりません。
中世の日本では女性の記録が残ることが少なく、築山殿も同時代の記録はおそらく見付かっていないのではないでしょうか。

徳川家康は、東照大権現として後に神になってしまいました。
もし築山殿が家康の命によって殺されたのが本当だとしたら、神は間違いを犯してはいけないのです。だから築山殿の死については、家康の判断が間違えていた・・・なんて書き方はできないわけです。

そうして考えてみると、築山殿って、本当はどんな人物だったのかわからなくなりますね。

ちなみに築山殿については

「三河後風土記」(作者不明。江戸時代初期に成立と推定。一節には家康の側近だった平岩親吉とも)に、「築山殿は甲州の医師減敬を通じて武田勝頼と内通した。家康は織田信長からこれを知らされ、家臣を使わして築山殿を殺した(要約)」

「三河東泉記」(岡崎の満性寺のお坊さんが元禄時代に書いたもの)に、「築山殿は大岡弥四郎の謀反に加担し、それが信康の妻から信長に伝わり、信長から家康に伝わり、家康の家臣が築山殿を自害させた(要約)」

という簡単な記述があるだけです。

多少の事情などは書いてあるものの、ほぼ外形的事実だけで、そのとき何を考えていたのかなどまったく書かれていません。もっとも、後世の人が「こう考えて行動した」と書いたとしても、それが本当かどうかわかりませんよね。

築山殿が家康によって殺害されたのは間違いなさそうですが、その死の理由については謎が多いと言わざるを得ません。築山殿がどのような女性だったのか、何をしたのか、どうもよくわかりません。

やっぱり築山殿って「誰なの?」という感じです。

さて、私は歴史の研究者ではなく単なるガイドにすぎません。そこでここでは、東海道沿いにある築山殿の関連地をご紹介しましょう。

まずは築山殿が庵を結んで住んでいたとされる「築山」は岡崎城の北側、復元された大手門から、国道1号をはさんだ向かい側付近といわれています。

復元岡崎城大手門

築山殿が謀反を疑われて家康の家臣に殺されたのは、佐鳴湖のほとりの富塚(十三塚)でした。大河ドラマの「紀行」にも出てきたとおり、一応船着き場が今もあります。

佐鳴湖

殺された築山殿は首を切られ、胴体だけは浜松城に向かう途中にある再来院に埋葬されたと伝わっています。これが再来院に残っている築山殿の墓石です。コンクリートで補修されています。

再来院の築山殿の墓

築山殿の首は岡崎に埋葬されましたと伝わります。安土に送られ、信長が見た後で岡崎まで戻されたともいわれています。その首の最初の埋葬地が祐伝寺。今も小さな五輪塔が祀られています。「京都まであるく東海道」でも立ち寄りました。

祐伝寺の築山殿供養塔

祐伝寺に埋葬された築山殿の首ですが、後にやはり岡崎市の八柱神社に改葬されましたといわれています。こちらには新しい五輪塔が建てられています。

八柱神社の築山殿首塚

築山殿の死後、その念持仏は浜松市南区にある地蔵院に本尊として安置されたと伝わっています。

高塚の地蔵院

ここも「京都まであるく東海道」で立ち寄っています。

これまで「悪女」の伝えがあった築山殿、「どうする家康」の影響で、今後は評価が変わってくるかも知れません。

ところで、富塚(十三塚)という地名は、人の死に関わる話が多く伝わる場所です。このことについては、また別の機会に調べてみようと思います。

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)  

その他のブログ記事