「手形」というと現在では商用で使う約束手形や為替手形などを指すことが多いのですが、江戸時代には旅行者が所持する身元証明書を「手形」と呼ぶことが多かったのです。
その意味での「手形」は関所を通るときに必要なものと思われていることが多かったのですが、実は関所を通るのに手形は必ずしも必要ではありませんでした。
たとえば男や芸人の旅人の場合、男は手形を所持していなくても、関所の役人の吟味を受けて、不審な点がなければ通ることができました。
また、芸人の場合は芸を関所の役人の前で披露することで、通ることができました。芸ができることが身分の証明になったからでしょう。
女性の場合はもっと厳しくて、特に新居関所(今切関所)では、手形の内容と所持している女性との間に少しでも相違があると、関所を通してもらえませんでした。
このように関所を通るときに使う手形は「関所手形」といいます。
関所手形は通るときに関所に提出するものなので、旅の途中で通る関所の数だけ必要でした。
これとは別に、身分証明書として持ち歩いているものがありました。
それが往来手形です。
往来手形には名前、住居地、宗旨、旅の目的などが書かれていました。
この手形には
名前 善蔵家内(家族の意味) 善兵衛 寿賀 みち ひな 太郎左衛門
住居地 当宿内(二川宿のこと)
宗旨 曹洞宗
旅の目的 西国三十三ヵ所並びに諸国神社仏閣拝礼のため
と書かれています。
漢字ばかりの文章で読むのが大変ですが、これを読んでいくと次のようなことが書かれています。
若又病死等仕候節は此方へ不及御沙汰其所之御作法宜敷御取計可被下候
「もし病死などした場合はこちらへ知らせるに及びません。その場所の作法にしたがって取り計らってください」という意味です。
つまり当時は旅に出て客死した場合、知らせなんて住居地に来ないのです。
そのまま死んだ場所で葬られて終わりなのです。
東海道沿いには投げ込み塚や投げ込み寺、無縁塚などと呼ばれる場所があります。
おそらく旅先で病死したら、各宿場にある無縁者を葬るお寺、あるいは宿場郊外に埋葬されていたのでしょう。
各宿場には無縁者を埋葬する「投げ込み寺」と呼ばれるお寺があり、あるいは宿場郊外では工事などで多数の古い人骨が発見されることがよくあります。
江戸時代には旅先で死んだ場合、その土地の作法にしたがって埋葬され、特別な事情などがない限りは旅人の住居地に知らせがいくことがありませんでした。
だから旅に出たまま帰ってこない場合、死んだものとみなされました。
江戸時代の旅って、今のように気軽にできるものではなかったんです。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
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月に1回日帰りで歩く東海道五十三次の旅
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