新居宿は東海道を日本橋から数えて32番目の宿場でした。
その宿場の東の入口は浜名湖に面し、船から上陸するとすぐに関所があったことで知られています。
このような特徴のある新居宿でしたが、一方で湊町でもありました。
現在は埋め立てが進んで新居町駅の前も周囲はほとんど陸地ですが、駅から約800メートル西にある関所にかけては、かつては浜名湖の一部でした。
今でも新居町駅の前には漁港があり、浜名湖へと通じる水路には多くの漁船が係留されています。
今は漁業だけですが、かつての新居宿には商業港もあり、廻船(輸送船)が寄港していました。
新居関所から道路を挟んだ向かい側に、このような石碑があります。
享保4年(1719)に幕府御用米を積んで出港した新居宿の筒山五兵衛所有の千石船大鹿丸は、銚子で米を下ろした後に仙台で木材を積み込み、再び新居に戻る途中の九十九里沖で暴風雨に遭遇して鳥島に流される事件がありました。
乗組員12名は鳥島でしばらく生活していたのですが、鳥島漂着3年目から9年目にかけて自殺者3名を含めて9名が死亡し、漂流から21年目に流れ着いた別の遭難船の乗組員とともに、生き残った3名は新たな遭難船の伝馬船を修復して八丈島へと脱出し、そこで救助されました。
無人島に漂着してから生還するまでの最長記録となる事件ですが、このことからも新居宿が商業港として機能していたことがわかります。
ちなみに船の所有者筒山五兵衛は、新居宿で万屋という旅籠も経営していました。
漁業の方も江戸時代から盛んだったらしく、新居宿の旧市街の中にある湊神社には明治34年(1901)のものになりますが、漁業者が奉納した灯籠が1対残されています。
この灯籠の竿の部分には、
大戸丸 大國丸 湊栄丸 茶屋網 中町網 源次郎舩・・・
など漁船や地引網あるいは網元と思われる名前が、1つの灯籠あたり16も刻まれています。
もう1つの灯籠と合わせると32もの漁業関係者と思われる名前が刻まれているのです。
狛犬もあります。この狛犬は昭和3年(1928)のものですが、奉納者として「新居宿養魚株式会社」と書いてあります。
ちょっと気になるのには江戸から奉納された灯籠もあることです。
江戸尾張町
島田店中
などと書かれています。
新居宿からは江戸の店に奉公に出てそのまま江戸に住み着いてしまった人が何人もおり、湊神社の神輿はそれら江戸に住んだ人々から奉納されたものだそうです。
この灯籠も同じように江戸在住の新居宿出身者が奉納したものなのでしょうか。
そして忘れてはいけないのが、新居宿は浜名湖の対岸にある舞坂宿から船で旅客を運ぶ「今切の渡し」の渡船場だったことです。
広重の浮世絵にも、右上の方に新居関所と渡船場が描かれています。
新居関所の前には船着場の石垣が復元されています。
また、湊神社の鳥居前にあたる場所には船囲い場があり、その跡地を示す碑が建てられています。
船囲い場とは渡船用の船を係留していた場所、つまりは船溜まりのことで、新居宿では常時120艘の船を準備して、渡船業務に供えていたそうです。
かつては120艘もの船が浮かんでいた場所も、現在では埋め立てられてすっかり陸地になっています。
新居宿には江戸時代の細い路地も残っており、まだ浜名湖の一部の水面があったころを想像しながらその痕跡を探して歩くのも面白いです。
(歩き旅応援舎代表 岡本永義)
【取材協力】
新居関所資料館
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