松尾芭蕉の旅といったら、「奥の細道」の東北地方を挙げる人が多いと思います。
しかし芭蕉がもっとも多く旅したのは東海道なのです。

大津市石山駅の松尾芭蕉像

芭蕉はその後半生、江戸の深川と大津宿近くの膳所との間を行ったり来たりする生活を送っていました。
その中で9回も東海道を行き来しています。
なにしろ「奥の細道」の旅も、最後は大垣から熱田に出て、東海道を歩いて江戸まで帰っているのです。

奥の細道を旅した松尾芭蕉と門弟河合曽良
国立国会図書館デジタルコレクションより

そんな芭蕉は東海道40番目の宿場、鳴海宿に多くの俳句仲間がいました。
鳴海宿で酒造業を営む豪家で、江戸時代後期には問屋職・本陣職も務めた下郷(下里)家の当主金右衛門は、知足と号する俳人でしたし、本陣当主の西尾伊右衛門は俳号寺島菐言、鳴海宿内の如意寺の住職玄翁文英は俳号如風というぐあいに、町の有力者にも俳句をたしなむ人が多くおり、それぞれ芭蕉と親交があったのです。

如意寺

貞享4年(1687)、江戸を発って大津に向かった松尾芭蕉は、11月に鳴海に滞在しました。
このとき、鳴海宿の西尾嘉右衛門の家で連句の会が催されました。
嘉右衛門は俳号を安信、本陣西尾家の分家にあたります。

鳴海宿本陣跡

連句とは戦国時代に武将たちの間で大流行した連歌と同じものです。
「5・7・5」「7・7」「5・7・5」「7・7」と出席者が互いに詠み合っていくものです。
この連句の最初の「5・7・5」を発句といい、これが独立したものが俳句です。
このときの連句の会は11月5日から7日の3日かけて行われました。
参加者は7名
 松尾芭蕉(芭蕉庵桃青)
 下里知足(湛然軒寂照)
 寺島菐言
 寺島安信
 出羽守自笑
 児玉重辰
 玄翁文英(沙門如風)

出羽守自笑は鳴海宿の刀鍛冶、児玉重辰は鳴海宿の問屋職です。
鳴海の俳人6人が芭蕉を招いて開いたこの連句の会では、全部で1000句を詠むことを目標に3日間にわたって開かれたのです。

鳴海宿西の入口付近

1000句を達成したことを記念してえ立てられた石碑が、鳴海宿の西の入口から約500メートル東海道を進んだところに面した、星崎の海が望める高台の上に建てられました。
「東海道名所図会」には、海と高台の上の碑の様子が描かれています。

「江戸名所図会」の千鳥塚
国立国会図書館デジタルコレクションより

星崎の海は埋め立てられ住宅地となっていますので、残念ながら現在は高台の上から海は見えません。

千鳥とはカモメの仲間の小形の海鳥の総称です。
干潟が広がっていた星崎の海では、多くの千鳥が見られたとのことです。

発句が「星崎の闇を見よとや啼く千鳥」と芭蕉が詠んだことから始まる1000句ですので、記念に建てられた石碑は「千句塚」とか「千鳥塚」と呼ばれています。

千鳥塚

碑の正面には「千鳥塚」と「武蔵江東散人 芭蕉庵桃青」と刻まれています。
文字は松尾芭蕉の直筆だそうです。
松尾芭蕉の句碑は芭蕉塚と呼ばれることもありますが、この石碑は唯一芭蕉の生前に建てられた芭蕉塚なのだそうです。
松尾芭蕉が自身で建てたという話もあります。

裏面には千句を詠んだ芭蕉以外の6人の名前と、芭蕉の発句が刻まれています。

千鳥塚の裏面

この松尾芭蕉の句碑は長らく草むらに埋もれて放置されていたのですが、地元の人の尽力によって周囲が「千句塚公園」として整備されました。

東海道から千鳥塚に行くには、結構急な坂道を上っていきます。

千句塚公園への道

この道を行くと公園の入口にはコンクリートの塀があり、「千句塚公園」と松尾芭蕉の発句、そして波と千鳥が描かれています。

千句塚公園入口

いうまでもないことですが。描かれているのはマンボウではなく千鳥です。
大切なことですから、何度でも言います。

マンボウではありません。

マンボウではありません。

マンボウではありません。

マンボウではありません。

ほ~ら、もうあなたはマンボウにしか見えなくなってきた!

※マンボウではなく千鳥です!

松尾芭蕉は東海道にゆかりの人物です。
坂道がちょっとたいへんですが、東海道を歩く際にはぜひ千鳥塚も訪れてください。

   

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

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    月に1回日帰りで歩く東海道五十三次の旅。4月までは比較的短い距離をライトに歩きます。
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