東海道五十三次のうち39番目の宿場である池鯉鮒宿ですが、所在地は知立市です。
「池鯉鮒」も「知立」も読み方は「ちりゅう」です。
どっちにしても、難読地名です。

歌川広重「東海道五拾三次之内 池鯉鮒首夏馬市」

宿場近くで開かれていた馬市を描いた歌川広重の浮世絵にも「池鯉鮒」と表記されています。
もっとも広重の浮世絵の表記がすべて正しいとは限りません。

それでは「池鯉鮒」と「知立」の表記の違いは、どこから来たのでしょうか。

現在の池鯉鮒宿

律令時代まで時代が遡ります。
このころは「知立」の文字を使っていました。

たとえば平安時代前期に編纂された「延喜式」(律令の細則を集めたもの。現在の六法全書のようなもの)には、三河国の26の神社の1つとして「知立神社」の記載があります。

国指定重要文化財 知立神社多宝塔

ところでこの知立神社なのですが、かつてはもっと大きな境内地をもっていたそうです。
その中には広大な広さのある「御手洗池」と呼ばれる池、あるいは湖がありました。

明治24年(1891)の地図には、その御手洗池が描いてあります。

明治24年の池鯉鮒宿付近
国土地理院旧版地図謄本に加筆

この池はすでに埋め立てられ、一部が湿地として残っているだけです。
池の跡には碑が建てられています。

御手洗池跡の碑
水がたまり湿地となった跡地の一部

この御手洗池には、たくさんの魚が棲んでいたそうです。
そのため「知立」の地名は江戸時代には鯉や鮒がいる池ということで「池鯉鮒」と当て字を使われることが一般的になったようです。

ところが明治維新が起こり、実態はともかく名目は王政復古となりました。
極端にいえば、律令時代のような天皇が直接治める国になったということです。
(実態はちがいます。明治前半は太政官制度が、後半は内閣制度があり、国政が行われていました)

王政復古ということで、池鯉鮒と呼ばれていた地名も律令時代の知立に戻されてしまったのです。

そこで市の名称は知立市になりました。
ただし東海道五十三次を歩く上では、拘る必要はないと思います。
江戸時代の名称の「池鯉鮒宿」でも、明治以降の表記を使って「知立宿」でもよいのではないんでしょうか。

   

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

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