2024.7.4

先週(2024年6月26日)放送のNHK「歴史探偵」は、歌川広重がテーマでした。

江戸時代末の浮世絵師、初代歌川広重が描いた浮世絵の背景について考察する内容でした。

三代歌川豊国作歌川広重肖像
国立国会図書館デジタルコレクションより

前半ではNHKの秋鹿(あきしか)アナウンサーが、東海道で浮世絵に描かれた風景の場所を訪れていました。

ちなみに「秋鹿」を「あいか」と読んだら、東海道沿いにあった中泉代官所で初期の代官を務めた一族になります。

番組では広重が描いた何枚かの浮世絵を取り上げていましたが、その1枚が「東海道五拾三次之内 箱根湖水図」でした。

歌川広重「東海道五拾三次之内 箱根湖水図」
国立国会図書館デジタルコレクションより

番組ではこの絵の「風景とおぼしき場所」を訪れ、実際の風景との違いから「描かれているのは架空の山で広重のデフォルメによるもの」と結論づけていました。

上記3枚
2024年6月26日放送 歴史探偵
「江戸の大ヒットメーカー 歌川広重」
より引用

実際に東海道五十三次の歩き旅を案内している私から言わせていただきます。
この結論はちがっています。
広重が描いたこの山は存在します。

二子山(左:上二子山 右:下二子山)

実際に東海道を歩いて箱根を越えるとわかることがたくさんあります。
石畳の道の歩きにくさ、周囲の風景、上り道と下り道、そして最後に見えてくる芦ノ湖などなど。

現在の箱根の旧東海道は半分程度は舗装されていて、石畳の道は一部しか残っていません。
最後に舗装道路から分かれて石畳となる道は、長い上り坂がつづいた後に下り坂となります。

箱根は外輪山です。火山の噴火でできた巨大な窪みがあり、その周囲を山が囲んでいます。

その山の1つが二子山です。
その名のとおり、2つのドーム型の山が並んでいます。
旧東海道はこの上二子山、下二子山と2つある二子山のうち、下二子山の麓をぐるりと廻って芦ノ湖がある窪みの方へと下っていきます。

二子山から芦ノ湖へ向かって降りていく坂が権現坂。この坂を下る途中から、前方に芦ノ湖が見えてきます。

この権現坂を下る風景を湖側から見ると、まさに浮世絵の風景となるのです。

下二子山の標高は約1065メートル、決して低い山ではありません。でも芦ノ湖の畔からその麓までは、かなりの距離があります。
実際に歩いてみると、下二子山と、隣の文庫山の間の谷にある石畳の道を上りきった標高805メートルの地点から下り坂となり、その傾斜の先に芦ノ湖が見えてきます。

芦ノ湖の畔は標高727メートル。平面距離にして約960メートルのところを標高差78メートルですから、約8%の下り坂、約5度程度の傾斜です。

5度の坂道ではありますが、実際に歩いた感覚的には下二子山の裾から一気に芦ノ湖に向かって坂が下っていくように感じるのです。

広重の描いた絵は、権現坂を実際よりもかなり急傾斜に描いています。これは実際に歩いたときの感覚をよく表現しています。大胆なデフォルメですが、卓越した技法としか言いようがありません。

このような絵が描けることは、やはり広重が一流の画家である証でもありましょう。

NHKの「歴史探偵」は歴史を題材としたバラエティ番組です。
報道番組でもドキュメンタリー番組でもありません。
番組をおもしろくするために演出されたシナリオがあり、撮影後には編集がなされるのは当然のことです。
だから今回の番組の内容に異議を唱えるつもりはありません。

ただ番組を見る上では、演出があることを理解した上で楽しんでいただきたいのです。
内容を鵜呑みにすることなく、楽しむ観点でご覧いただければと思います。

付記
出演していた箱根町郷土資料館の学芸員さんと大和文華館の館長さんのセリフは、「広重は架空の山を描いた」ではなく「広重は二子山の傾斜を急坂にデフォルメした」でも通用する内容です。
ということは編集段階で「架空の山」に方針転換された可能性があります。
撮影段階ではどのようなシナリオだったのか、とても興味があります。

 

(歩き旅応援舎代表 岡本永義)

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    3月21日 箱根湯本~元箱根
    参加費 各回3500円
    月に1回日帰りで歩く東海道五十三次の旅

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